『すごいぜ!菌類』出版される‼

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 筑摩書房の中高生から大学生を対象とした新書レーベル,ちくまプリマ―の355冊目として,本学科の星野保教授による『すごいぜ!菌類』が出版されました.
以下に著者による紹介文を掲載します.

本書は,菌類を分かりやすく紹介しその地位向上を目的としている,そしてターゲットである青年が親しみをもち,そのままレジに並ぶことを意図した題名である(もう一案は,“残念な”菌類であったが,著者がリアルに残念なので,そこまで身を削ることはないと判断した).著者は,研究者としては竹と梅の中間だが,菌と人の仲間に恵まれ,これまでに二冊の本を上梓している.
処女作『菌世界紀行』(岩波書店 2015年)では,自身が伝えたいことを真っ先に書いたはずが,なぜか「酔っぱらってばかりで,肝心の菌に関する記述が少ない」と評され,著者の小さな心は海よりも深く傷ついた.雪辱を誓った『菌は語る』(春秋社 2019年)では,得意とする雪の下の菌類の生態について無用なほど熱く,詳細に記したが,「菌の名前は横文字ばかりで,脚注が長く,呑んだくれてないのでつまらない」とマジ卍な反応だった.万策尽きたかに見えたそのとき,新たな救世主が現れ,本書が企画された.

【第一章「菌」とはナニモノなのか?】では、遺伝子分析を反映した直近の生物分類を基に,微生物としての細菌と菌類の違いや,菌類の種類について概観した.以前は動物だと思われていたアメーバ状の生き方をする生物の一部が,菌類とされたことが興味深い.現代生物学では細胞壁を持たない(カビ・酵母の範疇に収まらない)生物もまた菌類に含まれるのだ.さらに著者が過去を反省し,文中であまりふざけていないことに好感が持てる.人は更生し,やり直すことができるのだ.
しかし,担当とのやり取りで,もう少しテイストを加えて良いのではとの助言に調子に乗り、【第二章「菌」として生きる】以降,封印したはずのはっちゃけた筆致を復活させた.中高年の更生がいかに困難かわかる.ここでは、様々な菌類の生活環(生物の成長・生殖の過程)を通じて、生き方と核相(遺伝子を束ねた染色体の状態)の関係を紹介している.私たちがよく知る動植物は,一つの細胞に複相(2n)の核を一つ持ち,これが普通だとつい思ってしまう.しかし,菌類では一細胞に単相(n)の核を複数持つ時期が最も長く,動物に近いはずの菌類においても,最も重要な遺伝子の在り方さえ異なるのだ。
【第三章「菌」はバイタリティーにあふれている】は,著者の得意とする菌類の生き方を,極限環境への適応から,適応するための知性にまでを論じている.【第四章なまらすごいぜ! 菌類(略)】は,もう題名からして完全に地が出てアウトだ.
しかし,本書を通読することで,菌類に関する系統的な知識が得られるはずだ.また,本書を読了後,逆順に前掲書を読み進めると,生物学には知の集積と合わせてエンタメ的な物語があることがわかると思う.